芒種
繊細、美麗。通好みの味。
なんて涼しげな容姿でしょう。初夏の爽やかさをそのまま体に現したような清楚さ。“海の鮎”と昔の人がいったのも、さもありなんと想えます。それにまた、名前の響きがステキです。きす、キス・・・。
清楚な姿と響き美しいこのキスの、漢字表記を選びなさい。
①鱚 ②鯒 ③鯛 ④鱧
▼解答と解説コラム▼
【解答】①鱚(きす)
【解説】ことわざに「六月のきすは絵に描いてでも食え」とあるように、6月、きすはまさに旬の盛りを迎える。
外観にふさわしい淡泊な味。でも、正直いって、子どものころは塩焼きのキスゴ*が食卓にのぼると、小骨を取るのがめんどうだし、いくら食べても満腹にならないし、ため息をついたもの・・・。
ところが、長じて江戸前の天ぷらで、握り鮨で食べたときの感動といったら、これがあのキスゴか、と驚いた記憶が鮮明に残る。
“海の鮎"といわれるキスの繊細な味は、大人になってこそ愉しめるものかもしれない。
味だけではなく、キスはもともとナイーブな魚。鮮度もおちやすく、環境にも弱い。すみかは内湾や浅い海のきれいな砂地。
警戒心が強いため、並みの動きなどを敏感に察知しながら、数匹ずつ群れながらゆっくり泳いでいる。
昔から釣り魚としても人気抜群で、6月になると、砂浜には投げ竿がずらりと並ぶ。簡単に釣れるため、午前中だけで百匹以上釣ったと自慢する太公望も多いとか。
ふだん、私たちがお目にかかっているのはシロギス。もう一種、アオギスという東京湾などに生息していた種類があり、かつては江戸前の名物だった。しかし、水質汚染などのため、和歌山県より東では絶滅してしまう。九州・四国でも絶滅危惧種のひとつに数えられている。シロギスも漁獲高が減り、料亭向きの高級魚になりつつある。
鮮度がよいと刺身が美味。たんぱく質、ビタミンB、リン、鉄を含み、脂質は1%以下。天ぷらにこれほど合う魚もない。椀だねとしても味は最高。焼けば、だしもたっぷり出る。
「犬公方」で知られる五代将軍、徳川綱吉は「おめでたい魚」として、毎朝必ず、焼いたものを二尾、煮たものを二尾、計四尾食べたそうだが(樋口清之『食べる日本史』)、これはいくらなんでも・・・。
②鯒(こち)、③鯛(たい)、④鱧(はも)。