立夏
黒潮の使者、初夏を運ぶ
江戸時代、緑鮮やかな季節になると江戸っ子は、庶民も金持ちも、相模沖に到着する魚の群れに目の色を変えたといいます。
見栄っぱりな彼らは「女房を質に入れても」と高値のこの魚に大金を投じようとしたとか。
江戸時代の俳人、山口素堂が春から夏にかけ、江戸の人々がもっとも好んだ風物を詠んだ句の下線部にふさわしい語句を選びなさい。
目には青葉 山ほととぎす …
①寒鰆 ②初鰹 ③初諸子 ④春鰊
▼解答と解説コラム▼
【解答】②初鰹(はつがつお)
【解説】回遊魚であるカツオは20度ほどの水温をもとめ、南の海からイワシを追って、春から夏にかけて日本の近海へとやってくる。
南九州の沖に姿を現すのが3月ころ。その後、4月から5月にかけて紀州沖から房総沖へ、さらに7、8月頃には三陸沖から北海道沖へと北上していく。
大きいものは60センチにも達し、背は鉛青色で、腹は銀白色。全身滑らかな皮膚におおわれ、体側には縦走する数条の濃青色の線がある。
身肉の味わいもさることながら、こうした姿体が、江戸っ子の粋といなせな感覚にマッチして喜ばれたのだろう。
俎板(まないた)に 小判一枚 初がつお
素堂とともに蕉門―松尾芭蕉の門下―の宝井其角(きかく)の句にあるように、カツオの値段は元禄(1688-1704)のころでも相当の高値を呼んだようだ。
というのも、5月ころのカツオは脂がのってうまい上に、江戸時代には小さなカツオ舟ゆえに漁獲量も少なく、江戸っ子の見栄も手伝い、高値で取引されたのだ。
すりおろした生姜とともにいただく。
「鰹は刺身 刺身は鰹」の言葉どおり、鮮度(いき)のいいカツオなら、やはり刺身で食べるのが本命で、今日ではしょうが醤油か、にんにく醤油(またはにんにくのスライス)が添えられるが、江戸時代にはからし味噌が主流だったらしく、古川柳にも
初鰹 銭とからしで 二度泪(なみだ)
などと詠み込まれている。
カツオ漁といえば、一本釣り。生きたイワシをえさにまき、船のまわりにおびきよせて、釣り上げる。伝統のかつお一本釣りで知られる本場、土佐高知では初ガツオをたたきにする。
鰹のたたき 独特の風味と食べ応えが魅力の土佐の味薬味は生姜、茗荷、大葉などをたっぷりと。さらにポン酢のかんきつ類も加わり、風薫る初夏の海、山、野の香りと味が口のなかで響きあうようだ。新緑の候、艶やかな赤身の澄んだ風味を愉しむ季節の便り、そんな形容をしたくなる初がつおである。
①はかんざわらで冬の味、③はつもろこ、④はるにしん、ともに春の味。