• 白露
    不漁一転 今年こそ

    秋の訪れを前にサンマ漁が始まり、店先でも初物を見かけるようになったのは旧盆のころ。一尾300円台の値札に臆していたら、8月の終わりには食指がのびる100円台にまで。
    近年は漁獲が減り、特に昨年は記録的な不漁だったのに比べて今年は期待が持てるようです。刺身にまで料理の幅を広げた昨今のサンマ。とはいえ、秋の気配が濃厚になるにつれ、あの煙にいぶされた塩焼きのおいしさは捨てがたいものです。
    ほろ苦いワタ(内臓)こそサンマのうまさとまでいわれるほど、内臓もおいしく食べられるその理由を選びなさい。

    ①骨が少なく身離れがいい ②消化がとても早い ③胃や腸が長く大きい ④餌をほとんど食べない

    ▼解答と解説コラム▼
    【解答】②消化がとても早い
    【解説】季節感が薄らいできた昨今だが、それでも秋は彩り豊かだ。横綱格は秋刀魚だろう。
    全国紙が「今年も食べたい秋の味覚」を読者に聞いたら、ほかを断然引き離していた。2位に新米が入り、3位梨、4位松茸、5位は栗、6位の柿までは団子レース。海育ちは12位の戻り鰹まで姿が見えず、秋刀魚の独壇場である。
    食べておいしいだけでなく、秋によく似合う。秋刀魚を焼く光景は一幅の絵画である、と言ったのは魚博士で知られた末広恭雄だった。したたる脂が炭火にはぜる。煙は流れて、夕靄(もや)にとけこんでいく。そこはかとない郷愁が呼びさまされる。

    あはれ 秋風よ
    情(こころ)あらば伝へてよ
    ―男ありて 今日の夕餉(ゆうげ)に
    ひとり さんまを食(くら)ひて
    思ひにふける と
    佐藤春夫の名詩もあって、この大衆魚のイメージは不動である。
    こればかりはタイもヒラメも代役はつとまらない。

    しみじみとして、ときにほろ苦くもあるサンマの味わいを人生に重ねたくなるのはだいたいが昭和世代である。
    聞けば最近は、腸なんか捨てて開きにしてね、という客も多いそうだが、あの腸(はらわた)の苦味こそがサンマの味だと言い張るのも、かの世代の特徴かも。

    サンマは北太平洋を回遊し、夏から秋にかけて、産卵のために日本の沿岸を南下する。秋の味覚といわれるのはこのためだが、近年は日本沿岸で不漁が続き、現在の不漁は2010年からで長期化している。とくに昨年は半世紀ぶりの不漁だった。
    今シーズンは記録的な不漁から一転、9月初旬まで主産地の北海道の水揚量は前年を上回っている。
    サンマ漁は資源保護のため、出漁する船の大きさで解禁日が決めてある。七夕が過ぎてすぐにやってくる初物は試験操業によるもので、刺し網漁でおこなわれる。
    実際のサンマ漁は棒受け網漁といって、夜間、船の片側に突き出した棒に明かりを照らし、その明かりに誘われてやってきたところを網ですくう。

    その棒受け網漁解禁日が7月15日で、まずは5トン未満の船から始まる。それ以後、しだいにトン数が大きくなり、8月の旧盆を過ぎると、100トン以上の船が解禁に。本格的なシーズンに入る。
    9月のサンマの水揚げは、根室・花咲(はなさき)、厚岸(あっけし)釧路と北海道が中心だ。

    塩焼きが王道のさんまながら、昔ながらの料理法も知っておきたい。フライパンひとつでできる蒲焼きもその一つ。醤油、みりん、酒の味付けでもいいし、市販のうなぎのタレを使って好みで甘く、または辛くすればとても簡単に仕上がる。さんまの蒲焼きはいわし、うなぎと並ぶ三大蒲焼きのひとつ。
    もう一つ、丸ごと食べる「生姜煮」は常備菜として重宝する。材料はさんまと刻み生姜だけのいわば、佃煮だ。酢と水を同量入れてことこと炊き上げる。骨も内臓も血合いもみんな一緒に食べられ、1週間は冷蔵庫で保存できる、毎日でも食べたい味だ。
    かつては漁師の特権だったさんまの生食は、輸送技術と漁師の鮮度管理がもたらした新しい食べ方だ。遠い消費地でも可能になったのは2000年代に入ったころ。寿司や刺身はもちろん、サラダにカルパッチョ、たたき、なめろう。今のさんま人気を後押ししているのは、こうした生食の広がりだ。

    塩焼きサンマの内臓がおいしく食べられるその理由(わけ)は、サンマには胃がなく、腸も短いので食べたものが消化後すぐに排泄されるからだ。ただし、内臓は鮮度が落ちやすいので、新鮮なものを厳選したい。
    新鮮でおいしいサンマの見分け方は、目が澄んでいること、口先が黄色いこと、そして頭が小さく見えるのは身が太っている証拠。

    この週末には脂ののった太いやつを焼いて、まるごと楽しもうか・・・。