【解答】③タチウオ
【解説】ほぼ1年を通じて日本近海で水揚げされるタチウオは、沿岸に回遊してくる夏から秋にかけて漁の最盛期を迎える。
細身の魚体は全長1メートル超にも達し、銀白色に光って刀剣の太刀を思わせる。その姿から太刀魚の名がつけられたという。
江戸の小咄に―とある一軒家に深夜「金を出せ」とギラギラ光る抜身をさげて強盗が押し入った。主人は恐ろしさに布団を頭から被ってふるえていたが、その時足許にもぐり込んでいたネコが突然刀にとびかかった。
飼い主の危急を救うため身を挺して立ち向かうとはなんとも感心なネコよと、よくよく見れば、強盗のさげていたのはタチならぬタチウオだった―。
また、小魚などのエサを獲る際、なんと立ち泳ぎをして襲いかかることから立ち魚と呼ばれるようになったという説も。
漁師さんたちからは、幽霊魚とも呼ばれるタチウオ。神出鬼没でその姿をすぐに消してしまうという。魚群探知機に出る魚影は、パッと消えたり現れたり。これも、立ち泳ぎしているから魚影がつかみにくいといわれる。
身質がよく、どんな料理にしても美味で、熱を通すと淡泊な白身が旨みがグンと増すのが特徴のタチウオ料理の筆頭はやはり塩焼きだろう。骨離れがいいうえに、やわらかい白身がしっとり甘くておいしい。
淡泊な味だから、塩焼きのほかバターとの相性もよく、ムニエルなどフランス料理にも好まれる。
塩焼きがいちばんの料理とされるが、鮮度がよければ刺身。クセがなく、こんなに食べやすくおいしいのかと驚かされる。
脂がのっているのに味わいはあっさり、刺身にすればタチウオの旨みが舌にはじけるのだ。
刺身はたしかにうまいが、ほかの魚以上に鮮度のよさを必要とする。タチウオ釣りが人気なのは、釣り人たちが刺身のおいしさを知っているからにちがいない。また、ギラリと光る大タチが釣れあがって宙に舞う姿は荘厳ですらある。
うろこの代わりに体をおおっている銀粉、この銀粉がどれだけ残っているかが鮮度の目安になる。新鮮なものは文字どおり太い刀のような白銀色を放ち、美しい。一年を通じてあまり味がかわらないのに夏が旬とされているのは、そんな涼しげな外見のせいもありそうだ。
味も美味な太刀魚だが、生活のうえでも実は関わりが深い魚。
というのも、タチウオの体表を覆うグアニンと呼ばれる銀白色の物質はかつて模造真珠の表面を覆う材料にされ、近年ではマニキュアやシャドウのラメにも使われていたのだ。
冒頭の画像は、山口県周防大島の新名物「太刀魚の鏡盛り」。
県内の漁獲量の6割を占める周防大島で、引き縄釣り漁で1尾ずつていねいに漁獲されたタチウオをブランド化しようと、5年ほど前に島の観光協会や漁師、料理人が一つになって誕生した。
銀箔きらめく刺身を大皿にもりつけると、顔が映るほどにまぶしく光る鏡盛りになり、旬のすだちなどを香らせて食すそうだ。