【解答】③麦わら鯛
【解説】祝いの春の食卓に並べたい魚といえば、昔もいまも鯛にとどめをさすよう。色にちなんで春は桜鯛と呼び、秋の紅葉(もみじ)鯛と合わせて、年に旬が2度やってくる。
まず最初の旬は2月から5月にかけて。桜前線と同じように南からはじまり、北上する。ちょうど北国の桜が満開になるこの季節は「魚島(うおじま)の鯛」の季節。「桜鯛」は晩春、「魚島」は初夏、ともに季語として使われる。魚島とは、鯛などの魚が産卵のために集まり、海面が盛り上がったようにみえる現象をいう。
マダイは春から初夏にかけて水温が15度以上になると、産卵のため沿岸に近づいてくるのだ。桜鯛、魚島の鯛の旬をすぎると産卵後の味が落ちた「麦わら鯛」と呼ぶ。これは麦の収穫期と重なることから。秋にはふたたび「紅葉(もみじ)鯛」として旬を迎える。
産地といえば、古くから瀬戸内海や兵庫県近海が知られる。摂津(大阪)湾には、江戸時代、マダイが産卵のために群れをなしてやってきたという。まさしく「魚島の鯛」と呼ばれ、大坂人を夢中にさせた。
「魚島に桜鯛食わねば浪花人の恥」ともいわれ、井原西鶴の「日本永代蔵」には、魚島の鯛を漁期が過ぎても高く売るために、釣り針のかけぐあいを工夫して長く生かすことを夢見る話がでてくる。
明石で水揚げされたものは「明石鯛」として珍重される。明石と淡路島を結ぶ明石海峡大橋。橋の下に広がる海、播磨灘(はりまなだ)は昔から有名なマダイの漁場。
なぜなら、播磨灘は、春はイカナゴ―阪神名物“くぎ煮"でおなじみ―の大産卵場となり、その雑魚目当てにエビやカニが集まる。
「えびでたいを釣る」というたとえどおり、マダイはこれが大好物。マダイは、顔と向き合うとわかるが、丈夫な歯と発達した下あごをもち、甲殻類でも貝類でもバリバリ噛み砕く。
あのうまみは、こうしたえさ、えびやかにのうまみ成分、タウリンが身にしみついたものだ、といわれる。
この時季のマダイは、おろし身を刺身で食べるのもうまいが、霜降り刺身(皮霜造り)もおすすめだ。柵取りした上身を、皮を上にしてまな板にのせ、その皮に熱湯をかけると、皮が縮んでくる。
これを手早く氷水にとり、すぐにそこから取り出してさらしで水分をよくふき取って、刺身におろして出来上がり。
皮のほうがくるっと縮んで、淡い桜色の縮緬(ちりめん)絞りのようになり、一片一片の刺身の反り加減が、ぐぐっと食欲をひきつける。
マダイは良質のたんぱく質やミネラルを多く含むうえ、カロリーは牛肉、豚肉の半分以下。頭や骨は煮物や潮汁やかぶと煮にすると美味。とくに目の後ろの肉は絶品だ。
骨はだしが出ておいしく、余すところなく使える、やはり魚の王者にふさわしい魚である。「腐っても鯛」の言葉どおり、うまみ成分のイノシン酸は分解されにくく、死後しばらくしてからも味が落ちにくいという。
とはいえ、やっぱり、鮮度が命。イキのいいうちに、めしあがれ。