【解答】①富山湾
【解説】3月下旬からGWにかけてあれほど店頭や居酒屋などの食卓を賑わすホタルイカ。春が終わりを告げると、潮が引くように姿を消す。こんな動きをみせる魚介類は少なく、小さきものたちの春、といえば真っ先にホタルイカが思い浮かぶ。
産卵のために日本海側に押し寄せるホタルイカは、兵庫県や京都府からの入荷も多いが、3月以降、富山県産の入荷が本格かしてからがハイシーズン。肝はもはやパンパンに膨れ、複雑にして濃厚な味。
ホタルイカの味の決め手は、肝にどれだけ脂がのっているか、であり、富山湾産はほかの追随を許さず、といったところ。
その秘密は富山湾の地形にある。岸近くでも水深200~300メートルのすり鉢状となっており、深海性のホタルイカは、湾の奥までやってくる。それだけ成熟しており、だから、うまい。
なかでも富山県滑川(なめりかわ)市は、天正13年(1585)年のホタルイカ漁の記録を残し、ミュージアムまである有数の産地。
富山湾に面した滑川は、ホタルイカ一色の町だ。駅を出て歩く石畳には踊るホタルイカの絵が。マンホールには漁風景。3月1日に漁が始まり中旬になると、いよいよ出荷の最盛期となる。
漁港近くの加工場にはホワホワと湯気がたちこめ、50キロ単位でホタルイカが釜ゆでされていく。
この時期には生の出荷も忙しい。積み重なったホタルイカの山から、トレーに並べていく作業だ。ベテランとおぼしき女性たちにより淡々と作業が続く。
ホタルイカの料理といえば、まずは酢味噌和え。滑川のスーパーでは酢味噌と並べて売っているほど定番中の定番だ。
江戸の昔、加賀藩前田候が滑川にお越しの際の献立にもある伝統の味だ。
そのほか、小鍋仕立てのしゃぶしゃぶ。昆布を浮かべたおつゆに生のホタルイカを泳がせ、ゆであがったはしからポン酢醤油でいただく。子どもたちにも人気なのがフライで、ボイルしたものを丸ごと揚げる。
生のほうがおいしそうだが、肝が破裂してとんでもないことになる。
ところで、私たちの口にはいるホタルイカはすべてメスだということをご存知だろうか。富山湾のホタルイカ漁は春の産卵期に重なる。実はその時期、もはやオスはいない。冬に精子の入ったカプセル(精莢)をメスに託すと、そこで役目は終わり。死んでしまうのだ。
残ったメスは、たくましくもひとり(?)身ごもり、たくさんの子孫を残すことになる。オスが店頭デビューすることはないのだ。
ひっそりと陰の存在。誉(ほまれ)はすべてメスにあり。