【解答】③クロムツ
【解説】いまひとつメジャーではない魚ながら、クロムツはのどぐろ(①アカムツの通称)に勝るとも劣らない脂がたっぷりのった白身魚だ。
厳密にいうとムツとクロムツの2種がいるが、市場ではひっくるめてクロムツと呼ぶ。
北海道以南の沿岸から沖合に分布し、特に関東から伊豆半島にかけて多数生息している。底びき網や定置網などで漁獲されるほか、深場釣りの対象魚としても人気がある。
ムツの名は、脂がのっている魚を意味している。脂っこいことを「むつっこい」むつこい」「むっちり」などというのに由来する。
脂ののった身は新鮮なら刺身がおすすめ。なかでも、皮目をバーナーで炙った、あぶり刺しは、皮の香ばしさと身のふっくらした感じが口の中で絶妙にマッチ。かむほどに身の甘みがにじみ出てくる。
長らく庶民的な惣菜魚だったムツの定番といえば、やはり煮付けをはずせない。刺身にするときの難点である、身の柔らかさも煮付けならば逆にふっくらと煮上がり、煮汁もよくしみる。白身の脂ともよくからみ、より旨くなる。ツルッとして、コクのある皮もとても旨い。
また、醤油と砂糖、酒で調味した照り焼きは、脂がよくのったこの時季ならではの味わいだ。
焼き魚だともちろんシンプルに塩焼きもいけるが、塩糀(こうじ)に漬けて焼くと、身が柔らかく、うま味がにじみ出てくる。同様に、白味噌に漬けた西京焼きもおいしくいただける。
地方名をたくさんもつムツには、ちょっと変わった呼び名がある。
そのひとつがロクノウオ。
江戸時代、仙台伊達(だて)藩主は代々陸奥守(むつのかみ)であったため、「むつ」と呼ぶことをはばかったというのだ。ロクは六であり、「むつ」を表す。
もうひとつがオンシラズ(恩知らず)、オヤフコウ(親不孝)。
幼若魚のうちは沿岸の浅瀬にすむが、成長するにしたがって沖合の深い所へと移動する。ムツの若魚はともに暮らすことなく親から離れて大きくなるため、こう呼ばれる。
ところで、身よりも真子や白子に高値がつく魚を「親勝り」という。
カラスミになる卵巣をもつボラや、白子が白身の肉より価値をもつタラなどが親勝りの代表だろう。
ムツコ(むつ子)と呼ばれるムツの卵巣は、味の点でタイの真子に匹敵し、実は身よりも珍重される。料亭などでは、ムツの煮付けに煮物にして添えられるそうだ。
体型のよく似たホタルジャコ科のアカムツや④シロムツと呼ばれるオオメハタ(大目羽太)など、ムツと名がつくものは多いが、成長すると1mにもなるムツ(クロムツ)はまったくの別種である。
南半球、チリやアルゼンチンの沖合、南極海で水揚げされ1980年代から日本に輸入されるようになったマジェランアイナメは、②ギンムツ(銀むつ)の名で流通していたが、ムツという名前がクロムツやアカムツと消費者が混同する恐れがあるとして、今では市場名のメロという呼称が定着している。